2013年8月30日金曜日

短編「哀しき未亡人」アップしました。

短編「哀しき未亡人」アップしました。右のリストからどうぞ。 
これもオチとしては、及第点だと思う作品です。 お題、必須要素もうまく拾えたと思っています。

2013年8月16日金曜日

「竹取の」第31夜<あとがき>

(扉絵:ららんさん)
(作曲:てけさん)

 「竹取の」最後までお読みいただきまして、ありがとうございました!

 まだの方は、是非お読みいただいてから、あとがきをお読みくださいね(笑



 さて、この「竹取の」ですが、「即興小説トレーニング」というサイトで連作として書いたものを加筆訂正の上、こちらにアップしたものです。
 「即興小説トレーニング」とは、あるお題と必須項目(これは選べます)を元に制限時間(15分~4時間を選べるようになっています)内に即興小説を書き終えるという内容のサイトです。ここに投稿するようになったのは今年、2013年3月頃でした。それまでは、まともに小説なんて書いたことなく、某人狼ゲームでPR(ロールプレイ)する程度。あとは、チャットとかは好きでしたけど。人狼繋がりで、他の方がやっているのを見て、面白そうだな~程度で始めたのが、数ヶ月前です。
 そこで、何名か気に入った作者さんがいらっしゃって、その中のお一方が連作をやっているのをみて、ああ、こういう使い方もあるんだな~と、なんとなくマネしてみたのが、第一作目の作品でした。これは、追々こちらのサイトにもアップしてみようかなとは思ってますが、恋愛モノでした。二作目もなんとなく恋愛チックな、婚活ストーリーと銘打ってました。そして、三作目の連作がこの「竹取の」でした。実は、この作品、全くのノープランから始めて(前作2作もそうでしたけどw)、ここまできちゃいました。最初のお題が「死にかけの月」というものでした。さらに必須要素が「英検」なので、最初のシーンは英検前夜だったのです。さらに、月→かぐや姫→ファンタジー書きたい→月面人が現れる、みたいな感じで至ってシンプルに、「竹取の」と題して、第一話を書き下ろしました。
 ところが、です。改めて「竹取物語」を調べてみると、これが実に奥深い、かつ神秘的で謎の多い物語だということが分かったのです。ただのお伽噺だと思っていたのが、実は全くそんなことはなく、日本最古のSF小説であり、未だに沢山の謎に包まれた作品だったのです。さて、こんな大変なモチーフにしてしまっていいのだろうかと考え直してもみましたが、逆にネタとしておもしろいなと思いつつ、続けて話を展開していくことにしました。特に、小説内でもありますが、「竹取物語」の終盤には、帝が不死の薬を富士山に投げ入れるように指示したため、「不死の山」=「富士山」となったという伝説があります。あたしは今回この作品を書くにあたって、調べている内に初めて知った部分でした。意外に知られていないのではないかと思い、この部分をうまく使いたいという方針で序盤は進めました。
 また、太古の謎を調べていくうちに、古事記や日本書紀にもあたり、これは日本神話も混ぜていくと面白そうだなと。特に「竹取物語」に出てくる月の使者の属するお月様を司る神様「ツクヨミ」については、あまり記述がないようなので、この辺を膨らませてみることにしました。また、富士山の伝説繋がりで、「コノハナサクヤヒメ」を主軸にもっていくことに。実は、富士山伝説では、コノハナサクヤヒメ=かぐや姫は定説らしいのですね。
 しかしながら、この設定を後悔し始めたのは10話前後あたりからでしょうか。調べれば調べる程、日本神話体系や竹取物語の奥深さに打ちのめされました。こんな単純な発想でやってていいの?とか考え始めました。この辺で、一度挫折しかけまして、途中で打ち切ろうと思ったこともありました。けれど、毎回読んで感想を述べていただける方が数名いらっしゃいまして、なんとか挫折せずに済みました。本当にありがたいことです。おかげで、何とか無理やりにでもこじつけて話を進めることができました。最終的にはそれほど矛盾がでないようにはできたと思ってます。ただ、神話研究とかされている方からすると、突っ込みどころは満載だと思いますけど。まあ、そこは、ファンタジーなので、ご勘弁を。
 終盤にかけて、読んでくれている方から、「もふさん、なんか降りてない?」と言われるほどのめり込んでいた部分があったようです。特にサクヤ姫やイワナガ姫が頻繁に出てくるあたりだったかと思います。
 話の中にも出てきますが、イワナガ姫はサクヤ姫と姉妹なのですが、醜いという理由でニニギノミコトから拒否されるのです。これは、天皇の末裔が神の血族なのに、なぜ寿命をもっているのかという理由づけではあるのですが、それにしても、酷い逸話ですよね。しかも、イワナガ姫のその後については、古事記にも記述がないようなのです。そこで、このお姫様にもスポットを当てたいなと思って、こういう流れになったのです。もしかしたら、イワナガ姫がちょこっとばかし、あたしに降りたのかも知れませんね。イワナガ姫がその名の通り、「岩」を司る神様のようなので、そっくりそのまま富士山にもってきて、実は富士山はサクヤ姫ではなく、イワナガ姫そのものだったという結末に、この小説では収めてます。実際、サクヤ姫は水の神様なのに、何故か富士山信仰では火の神様になっているのです。
 今年、富士山は世界遺産に認定されましたね。世界に誇る美しい山が、実は大昔醜いと言われて突き返された神様だったという結末で、ハッピーエンドになればいいなとの思いも込めて。

 話は変わりますが、この物語のもう一方の主軸は、主人公の瑠璃ちゃん、ちいちゃんと亮くんの三角関係です。ちいちゃんと亮くんは従兄妹で幼馴染み。瑠璃ちゃんとちいちゃんは大の親友という関係。オーソドックスな恋物語の予定でしたけど、ちいちゃんの存在が意外に大きく、思ったよりは色々紆余曲折がありました。ただ、即興小説サイトで公開した時には、特にちいちゃんと瑠璃ちゃんの思いとか関係とかがあまり深く描けなかったため、ラストシーンが若干唐突な感じになってしまったのではないかという指摘もいただき、確かに自分で読み返してもそう思ったので、この辺はかなり加筆しました。特に別荘での夜にちいちゃんと瑠璃ちゃんの会話をさらりと流していた部分をかなり深く描写するようにしました。これで二人の思いが読者の方々にも分かるようになったのではないかと思います。
 あと、心残りがあるとすれば、亮ちゃんの心理描写がもう少しできたらなとは思いましたが、一人称で始めてしまったために、どうしてもここは描くのが難しかったですね。余裕があれば、短編で亮くん視点のサイドストーリーみたいなものを書ければいいなぁ~とは思ってますが。いつのことになるやら…(笑
 扉絵を描いていただきました、ららんさんと、OPED曲を作曲していただいた、てけさんには、感謝です!

 次回作は、今、即興で短編でいくつか書き始めてますが、中学生を主人公にしようと考えてます。今まではできるだけ登場人物を少なくして、キャラを分かりやすくすることに専念してきたのですが、今度は少しキャラを増やして、群像劇っぽくしたものに挑戦してみたいなと考えてます。ですので、三人称でチャレンジです。今回はプロットもそこそこきちんとして書くつもりなので、ここと、あと別サイトでの公開になるかも知れません。即興の方は、キャラ設定とか、サイドストーリーを束ねる役目にしようかと思ってます。題名だけはすでに決まってまして、「Ncon!」の予定です。えぬこん!と読みます。どんなストーリーになるかはお楽しみ。
 では、長々とありがとうございます。「竹取の」の感想など、本当に簡単なもの、一言でも結構ですが、残していっていただけると嬉しいなと思います。では、皆様にもコノハナサクヤヒメのご加護がありますように!

2013.8.16
もふもふ

(作曲:てけさん)

2013年8月14日水曜日

「竹取の」第30夜<晦日>(最終回)

(扉絵:ららんさん)
(作曲:てけさん)

 そのままどうということない話を二人でお喋りしているうちに、いつの間にかまた眠っていたらしい。次に気がつくと、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。隣にはちいちゃんが軽い寝息を立てながら寝ていた。軽いウェーブのかかった髪が朝日の光線を受けてにうっすらと金色に光る。鼻が高いなー。肌が綺麗だなー。なんて眺めているうちに、ちいちゃんが寝返りをうった。
「……朝?」
 目をうっすらと開いてわたしに訊いた。
「みたい。もう結構いい時間かも。起きる?」
「うん」
 二人で一緒に、せいので起きた。二人とも昨日の服を着たままだった。わたしたちは顔を見合わせて笑った。それから部屋を出てリビングに向かうと、すでに先生と亮くんが朝食をとっていた。
「おはよう。瑠璃ちゃん、大丈夫かい? もし具合が悪いようなら病院に?」
「いえ、大丈夫です。あの……先生、色々ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
 わたしは改めて謝罪した。結局先生には色々お世話になってしまった。
「全然気にすることないよ。瑠璃ちゃんのせいじゃないし。
 前にも言ったけれど、取材だと思ってるし。というか、実は今回のことを新しい作品にしようと思ってるんだ。……まあ、二人とも座りなさいな」
 わたしたちは二人揃って席についた。美貴さんがそれぞれに朝食のセットをしてくれる。
「あの……それで、どうなったんですか? わたしは途中から覚えていないし、ちいちゃんに聞いたら、全部終わったって……」
 その新しい作品とやらは気になるのだけれど、とりあえず、昨夜の顛末だけは聞いてみたい。
「うん、そうだね。先の話をするより昨夜の話をとりまとめなければだね」
 先生は胸元からいつもの手帳を取り出して、テーブルの上に置いた。
「これはサクヤ姫から聞いた話ではあるけれど……」
 と、前置きして、テーブルの上に置いた手帳を開くまでもなく話を続けた。
「イワナガヒメは富士山に戻り、アメツチ王も月に帰った。それぞれあるべき処に戻ったというところか。アメツチ王は月に戻ってツキヨミを説得すると言っていた。いずれツキヨミの怒りが解消することになれば、イワナガヒメも月に戻れるかも知れないと王は言っていたそうだ。それまでは富士山はしばらく活火山であり続けるだろうけれど、と」
「いつまで続くんでしょうか?」
「さあてね。100年なのか、1000年なのか。何せ神様の時間の流れはボク達とは桁が違うからね」
 確かに、神話の時代から永遠と続いてきたすれ違いがようやく解消したばかりなのだから、月の神様の機嫌が直るのにもまた永遠に近い時間がかかるのかも知れない。
「サクヤ姫は?」
 わたしは一番気になっていることを訊いた。
「まだキミの中にいるよ。サクヤ姫と瑠璃ちゃんは一心同体みたいなものだからね。ただし、自らを封印し前と同じように繭の中にいるから、一生出てくることはないとは言っていたけれどね」
「ああ……そうなんですか」
 姫には悪いけれどわたしはちょっとがっかりした。一心同体。確かに姫もそういうような事は言っていた。けっして切り離すことができない魂の関係なのだろう。何事もなければ、もう二度とあの繭から出てくることはないのか。
「そして、さっきのボクの新作の話なんだが。サクヤ姫によると、活火山である富士山の噴火を完全に止めることはできないけれど、ただ一つだけ、その活動を弱めるというか抑える方法があると聞いたんだ」
 亮くんが横で頷いた。さっきまでその話をしていたらしい。
「今の伝説によると、富士山はコノハナサクヤヒメの化身とされているけれど、実はそれはイワナガヒメだった。つまり信仰されるべき神が違うということなんだ。本来はイワナガヒメが祀られるべきところをサクヤ姫が祀られている。確かに水の神であるサクヤ姫が富士山、つまりイワナガヒメを抑える力はあるのだが、それは完全ではない。では、どうしたらいいか。それは、イワナガヒメが富士山にいるという信仰を信じる者が増えればさらに富士山の活動を抑えることができるということだった」
「それで、先生は新作でイワナガヒメにまつわる話を書いて出版すれば、ファンの人達に富士山に参拝に行かせるようなことができるんじゃないかって」
 亮くんは補足した。
「最近じゃ、『聖地巡礼』ていうのがあるんだってね。次の新作は前にも言ったけれど、中高生向けの作品になる予定なんだ。これが映画化とかアニメ化されれば、一気にそういうファンが増える可能性もある。実はイワナガヒメは美人だったなんて説だと、イマドキの子にはウケるんじゃないかと。これは、段逆くんのアイディアなんだけどね」
「さすが、厨二……」
 ちいちゃんはくすくすと笑って呟いた。
「こら、ちい!」
「いや、そのアイディアはいいと思ってる。例えば、今更『古事記』や『古今和歌集』の新解釈をボクが発表したところで学会では誰も信じる者はいない。かと言って、今回のことをそのまま世間に公表するわけにもいかないだろう。けれど今のボクの実力なら、新作を実写化にすることは無理にしてもアニメ化くらいならいけるんじゃないかと思ってる」
 軽くアニメ化とか言えるところがさすがに人気作家といったところなのだろうか。
「まあ、それでどの程度の人達がファンになってくれるかは未知数だが、ボクにやれることと言ったらこれくらいのことしかないからね」
「それ以上のことができる人なんていませんよ」
 亮くんは断言した。それはわたしもそう思う。
「という訳で、キミたちをモデルにした作品を書いて発表したいんだけれど、許可もらえるかな? もちろん名前も舞台もまるっきり変えるし、脚色も入れるし、ストーリーとしては全く異なったものになるけれどね。ただ、発想の元となったこの事件はキミ達が関わってきたことだから、一応は確認をと思ってね」
「それは……」
 これだけお世話になった恩人に断ることなどできるはずもなく。またそれで少しでも富士山の噴火が先延ばしにできるのであればいくらでも協力はすべきだとは思う。
「もちろん。わたしたちがどうのと言えることではありませんし」
「ぜんぜん、かまわないと思いまーす!」
 一瞬口ごもったわたしに対して、ちいちゃんはなんの躊躇もなかった。
「よし決まった。もうプロットはできてるんだ。あとは出版社との打ち合わせで、オッケーが出れば、早速執筆にとりかかるとしよう」
 先生は手帳を胸元にしまって元気に言った。
「じゃあ、朝食を食べたら出発しよう。帰るよ」
 それから先生のポルシェで帰宅の途についた。



 連休明けのクラスは全く以前の通りに戻っていた。まるであの時のことをみんな忘れてしまったかのように、男子は一様にわたしの前を空気のように通り過ぎていったし、告白してきた数名もすっかりわたしのことを忘れてしまったかのようだった。それに伴って女子からの意地悪もなくなり、それ以前の空気に戻っていた。

 その後、亮くんと話をする機会がめっきり減ってしまった。亮くんは毎日放課後は予備校通いだったし、もちろん夏休みも休みなく通っていたらしい、ということはちいちゃんからは聞いていた。どうやら志望している大学はわたしの思っていたよりずっと上のランクらしく、亮くんでさえかなり頑張らないと難しい難関校なのだという。ちいちゃんでさえ、滅多に会わないという。
「もうね、完全にレアキャラね、あれ」
「なにそれ」
 わたしはちいちゃんの言葉に笑った。けれど、少し寂しかった。どうもわたしには亮くんがわたしのことを避けているようにしか見えなかったから。時々見かけても、気がつかないフリをしているようにしか見えなかったし。もしかしたら、単なる被害妄想なのかも知れないけれど。でも、時々ちいちゃんが両親から聞いた話を元に状況報告してくれたりするのが支えだった。
「もしかしたら、卒業まで黙ってるつもりかも、あの唐変木」
 時々亮くんへの不満を漏らしたりしてるちいちゃんをわたしは微笑ましく見ていた。
「でも、瑠璃ちゃんのこと気にしてるから。わたしの勘は絶対だからね」
 と、わたしを安心させようとしてくれるちいちゃん。でも、さすがに秋を過ぎることになると、わたしも若干諦めかけていた。どの道、亮くんは進学で東京へ行くわけだし、わたしは地元の短大にほぼ決まりなんだし。
 それに、ちいちゃんが言うとおり少しでもわたしのことを想ってくれているなら、こんなに放っておくことができるものなのだろうかと思ったり。ちいちゃんの応援を受けてもやっぱり悲観的な考えにしかならない、悶々とする日々が続いた。時々学校内で亮くんを見かけても、こちらに視線を合わせてくれなかったこともさらに拍車をかけていた。

 それから数ヶ月が過ぎ、年末の声が聞こえ始めた頃、そろそろ志望校を決定しろと先生に迫られたり、模試を受けたりと立て続けに多忙な日々を過ごしていたある日。亮くんからメールが入った。
『浦城先生の本が出た。同時にアニメ化も決定したらしい』
 と、ごくごく簡単なメールだった。短いメールではあったけれど、わたしのこととか、あの出来事を忘れてしまったとか、そういうことではないことが分かって、少し嬉しかった。
 『お知らせありがとう』
 とまで返信を打って止まった。その後に色々聞きたいことが沢山あったはずなのに、なんて打てばいいのかが分からない。色々迷って、そのまま送り返した。ひどく素っ気のない返事で気分を害したのではないかと心配するくらいだった。ところが、その後にすぐにまた返信がきた。
 『クリスマスイブに会えないか?』
 また短文だった。わたしはドキっとした。これって期待していいことなんだろうか。いや、半年もまともに会ってない相手に何を期待しろというのか。わたしはまた悩んで、短い返事を送った。
 『いいよ』
 送り返してから、すぐにアドレス帳からちいちゃんの電話番号を検索して、電話をかけた。
「それ絶対、告白だから! 絶対OKするのよ!」
 ちいちゃんは元気にそう言った。電話の向こうでサムズアップする姿が想い浮かんだ。ちょっと後ろめたさもないわけではなかったけれど、あの夜二人で語った二人の想いに偽りはないと確信して。



 ────────そしてクリスマスイブの夜。

「あのことは、ちいには内緒なんだ……」
 亮くんは顔を赤らめながら、開口一番にそう言った。予備校が終わってから会ったので、すでに外は暗かった。
 わたしたちは、駅前のカフェで会った。外は昨夜降った雪がうっすらと路面を白く染めている。このカフェは以前に亮くんと一緒に来たことがあった。今度は奥のテーブル席に座っているところが違うけれど。
「あのことって?」
 わたしは最初何のことか分からなかった。
「竹泉、見てたんだろ?……その……俺とちいが……いや、アメツチ王とイワナガヒメの……キス……」
「え!」
 思わず大声が出てしまった。
「あ、ごめんなさい」
 わたしは俯いて黙った。顔が紅潮しているのが自分でも分かった。
「やっぱりか。見てたんだな…。実は俺もあの時意識があって。なかったのはちいだけらしい」
 あ、そうなんだ。ちいちゃんだけ? 亮くんは覚えているのに、ちいちゃんだけ知らないってこと、あるんだろうか。
「竹泉から言ったか? その話?」
 わたしは俯いたままブンブンと首を振った。実は言いかけたとかはここでは言えない。
「そっか。じゃあ、それはずっと黙っておいてくれ。なかったことにするっていうか」
 わたしはコクコクと頭を縦に振った。
「あ、今日話したいのはその事じゃないんだ。……その、サクヤ姫って、あれから出てくるか?」
「サクヤ姫? ううん。あれからは全然でてこないよ。夢にもでてこなくなったし」
「そっか。ならいいんだ……」
 わたしはちょっとだけ頭を上げた。亮くんはわたしから目線を外して、壁の方にやった。なんとなくそわそわしているように見える。
「あの……さ。……今言うべきことではないのは重々承知してるんだが……」
 一旦外した目線をまたわたしに戻して、亮くんは口ごもった。それから、目を白黒させて、思い切ったように口を開いた。

「俺と付き合ってくれないか?」

 わたしは、頭が真っ白になった。

 まるで宇宙空間にでもいるような、ふわふわした感覚。
 え、何? 今なんて言ったの? マジ? 信じられない。あり得ない。聞き間違い? 勘違い?
 わたしの頭の中を色んな考えが回り回って、考えがまとまらない。ちいちゃんに予め言われていたにもかかわらず、いざそう言われると、緊張して、何と答えていいのかが分からない。
「ダメか? そりゃ、そうだよな、こんな時期に。受験前だっていうのにさ。……分かってたんだ……ごめんな」
 わたしが黙っているのを否定ととったのか、亮くんは悲しそうな顔でそう言った。
 ブンブンブンブン。
 わたしは黙って首を横に振った。ダメなわけない。ダメはわけない。
「あ……あの…い、いいよ。ううん…お願いします」
 わたしは頭を下げた。
「そっか。よかった……」
 亮くんはほっとため息をついた。
「で、でも、何で?」
 何故わたしなのか、それが聞きたかった。
「だよな。何で今かって……その……俺は、サクヤ姫の魅力のせいで竹泉を好きになったのか、どうかってずっと悩んでいたんだ。そんなことないってずっと思ってた。でも、自信なくって。だから、時間置いて、それでも好きだったら、告白しようって思ってた。それに、あの時、護ってやるっていう約束果たせなかったから、今度こそ護ってやるって言えるようになったらって思ってた」
 わたしが聞いたのは、何故今かということではなかったのだれど。亮くんはそのまま続けた。
「俺の志望校さ、結構ギリギリで。あの事件があってから、ちょっと一時的に学力が落ちてさ……あ、それは竹泉のせいじゃないからな」
 そうだったんだ。わたしのせいって言おうとしたけれど、先を越されてしまった。
「それから、俺かなり頑張ったんだ。目標も設定して。夏休みもほとんど予備校に缶詰だったし。それで、今回の模試、かなり良かったんだ。ようやく合格圏内に入れそうだって、予備校の先生からもお墨付きをもらえた。それで、目標に達したら竹泉に告白しようと思ってた。その目標にようやく辿り着いたところだったんだ」
 真剣にわたしのことを想ってくれたということだけでわたしは胸いっぱいだった。
「それにもう一つ、今じゃなきゃならない理由があるんだ。竹泉、一緒に東京に出ないか? 東京だって、短大は沢山ある。そうしたら、遠距離じゃなくても済む。できれば一緒に住んだ方が経済的にはいいんだろうけど、さすがにそこまでは言えないしな。
 今ならまだ願書提出間に合うだろ?」
「え?」
 わたしは一面ピンクの世界にいた。いたような気がした。亮くんと一緒に東京。もう甘い将来しか想像できなかった。しかも、いきなり同棲とか、恥ずかしすぎる。
「そうだよな、急にそんなこと言われても、だよな。ごめん、なんか一足飛びな話で」
 そう言って亮くんはコーヒーカップを持ち上げた。若干カップが揺れていた。
 わたしはブンブンと首を振って、
「そんなことない!わたし一緒に行きたい。聞いてみる。パパとママにも。……さすがに一緒に住むのは……アレだけど……」
 わたしは俯きながら、そう言った。
「はは……そっか。よかった。必要なら、俺も説得に行くよ」
 亮くんと一緒だと、マズいと思う。絶対。あの優しいパパがどう豹変するか分かったもんじゃない。
「あの……ね、亮くん。一つ聞いていい?」
「ん? なんだ?」
「どうして、わたしのこと好きになってくれたの? いつから?」
 どうしてもここは聞いておきたかった。
「ん……ああ……。いつだったっけ。ちいの家に遊びに来ていた時さ。一度会っただろ? あれ、中学に入る前だったはずだな。竹泉がまだ三つ編みの頃だよ」
 え? 高校入る前に会ってたんだっけ? 全然覚えてない。しかも、亮くんわたしが三つ編みしてた頃知らないって言ってたのに。
「そん時は、それほどでもなかったんだけどさ、まあ、ちょっと気になるって程度かな。で、高校入ったときに、ちいの友達って、紹介された時かな。どうしてって言われても、分かんねぇ。好きなんだから、好き。……じゃダメか?」
 亮くんは照れた顔で、ぶっきらぼうにそう言った。
「ううん。ありがとう」
「あ、ただ、本当にサクヤ姫のせいじゃないからな。サクヤ姫が出てくるずっと前からだからな」
 続けて言い訳のようにそう言った。この点はこだわって引けない一線らしい。それはそれで嬉しかったけれど。
「それに……うちの高校選んだのは、そのせいもあるし……。もちろん近いっていうのもあるんだけどな」
 最後にボソボソとそう呟いたのを聞いて、わたしはむしろ恥ずかしくなった。そんな前から。しかも、一度会っただけなのに。恥ずかしさを紛らわすようにわたしはふと外に目をやった。
「あ」
 わたしのピンクに染まった瞳に、少し欠け始めた丸い月が映った。
「月、きれいだね」
 今頃、アメツチはどうしてるのかな。なんて思いながら。
「あ、ああ。そうだな」
 亮くんも頷いて、わたしに手を差し伸べた。

 月はまるでわたしたちのことを祝福しているかのように、目を細めていたように思えた。わたしは今遠い、富士山に月が重なる景色を想像しながら、亮くんの手を握った。

<Fin>

(作曲:てけさん)

2013年8月13日火曜日

「竹取の」第29夜<残月>

(扉絵:ららんさん)
(作曲:てけさん)

 太古の昔。ある男の神と女の神が恋に落ちた。男神の名をアメツチノオオワカミコといい、月の神であるツクヨミの子にして、月の王。女神の名をコノハナサクヤヒメといい、オオヤマミツの娘にして、葦原中国一の美貌をもつ者として高天原でも有名であった。オオヤマミツはそれを知って、姉のイワナガヒメと妹を月に嫁つがせる約束をした。アメツチノオオワカミコはツクヨミが月(天)と地を繋げる者として育てあげ、いずれは葦原中国をも統べるつもりでいた。しかし、天津のアマテラスが先に葦原中国を平定してしまったため、太陽が昼を司り、月がより黄泉に近い夜を司ることになってしまった。オオヤマミツは天津国の勢いを感じ、ツクヨミとの約束を破棄し、娘を見初めた天孫ニニギに姉も含めて差し出した。ところが、ニニギは姉のイワナガヒメが醜いことを理由に、オオヤマミツに差し戻した。オオヤマミツは、イワナガヒメの子は永年の寿命を享受できるであろうと申し出たが、ニニギは耳を貸さなかった。そこでオオヤマミツは婚約を破棄したアメツチノオオワカミコにイワナガヒメを再度差し出し、ツクヨミはそれを受諾した。
 コノハナサクヤヒメがニニギに嫁ぐ夜、人に隠れてサクヤヒメとアメツチ王は天の川で逢瀬した。親の勝手によって引き裂かれてしまった二人は、いつかまたどこかで巡り逢うことを信じて契りを交わした。しかし、その逢瀬は姉のイワナガヒメに見られていたのであった。サクヤヒメとニニギの婚儀の日、同じく月ではアメツチとイワナガヒメの婚礼の儀が執り行われた。誓いの儀を終えたイワナガヒメは初夜の伽の際にサクヤ姫との逢瀬についてアメツチ王に釈明を求めた。しかしアメツチは頑として答えることをしなかった。怒り狂ったイワナガヒメはアメツチ王に呪いをかけ、過去の記憶を消し、従者としてその位を落とした。それを知ったツクヨミはイワナガヒメを問責した。イワナガヒメは二人の「罪」について訴えたが、ツクヨミはそれを受け入れず、イワナガヒメを日本一高い山に封印した。それが富士山である。しかし、ツクヨミでさえ、従者に落とされたアメツチ王の呪い解くことができず、以来月に王が不在となる。
 時を同じくして、ニニギに嫁いだサクヤヒメは伽の翌日に子を孕んだ。ニニギはそれを怪しんだが、サクヤヒメは産屋に火を放って子を産み、その嫌疑を払った。しかしニニギはそれ以降もサクヤヒメを信用せず富士の麓に追いやってしまったのだった。富士山の麓に辿り着いたサクヤヒメはイワナガヒメの呪いに逢い、姫の記憶は封印され各地に飛ばされてしまった。
 それから何千年もの時の間ツクヨミはアメツチ王の呪いを解く方法を探していたが、どうやらそれはサクヤヒメとの関係ではないかと気づく。そこでツクヨミはサクヤ姫の魂を月に復活させ、イワナガヒメの言う「罪」を質すべく、竹の娘として地に落とし試練を与えた。成人した竹取の娘を迎える従者として、アメツチ王を向かわせてもみたが王の記憶は戻ることはなかった。その代わりに月に去る二人を目撃したイワナガヒメは嫉妬のあまり、富士山を噴火させたのである。ツクヨミはアメツチ王の記憶を取り戻すために何度もその試みを続けたが、何度やっても同じ結果にしかならず、結局は失敗に終わってしまう。その試みをする度に悲しい思いをすることになったサクヤヒメはアメツチ王に見つけ出されぬよう、地味に普通に生きていけるよう深く思った。その思いが作り上げたのが竹泉瑠璃という、別人格であり別の魂であった。サクヤヒメは自らを繭の中に封印しわたしの中に隠れた。

 だからわたしはサクヤヒメであり、サクヤヒメではない。サクヤヒメはわたしであって、わたしではない。

「ボクが月の王?」
 人の姿をしたアメツチ(姿は亮くん)が脱力したように膝をついた。
「姉上、イザナギ、イザナミに誓って申し上げます。確かにかつては王とわたしは愛し合った仲ではございますし、あの夜わたしたちは人を忍んで逢瀬をいたしましたが、一切の過ちはございません。親の勝手によって引き離された身とはいえ、神として恥じる行いはできませぬ。王を信じてください。そして、あなたの実の妹のことを。
 王にはいつかあの償いはしたいとは思ってはおります。いえ、だからこそわたしはここまで我慢できたのかも知れませぬ。この何千年もの間、何故かは分からないまま試練と思って耐えて参りました。しかし、全ての記憶を思い出した今となって思うのです。わたしだけではなく、わたしたち三人の単なる誤解が原因でこの地上の人々を苦しめることがあっていいのかと」
 イワナガヒメ(姿はちいちゃん)は、その場に伏したまま、きっとサクヤヒメ(姿はわたし)を睨み付け、
「そんなことはとうに分かっている! しかし、わたしはニニギノミコトが憎かった。そしてその子孫達も憎い。憎んでも憎みきれない。だから知っているのだ、全ては八つ当たりであると。ふたりに何もなかったことも薄々は知っていた。けれど、王はわたしの叱責に答えてはくれなんだ。あの時、わたしの言を否定してくれれば、どんなに楽であったか! しかし、それはわたしの我が儘であったことは自分でも分かっているのだ。こんな醜い者を愛してくれる者はいないということは、もうずっと前から……」
 イワナガヒメはそう言って号泣した。それを見て、アメツチ王は立ち上がりそっとイワナガヒメのそばに寄った。
「姫。姿はその人そのものではございませぬ。いつわたしがあなたのことを愛しておらぬと申しました? 確かにサクヤヒメとはご縁がありませんでしたが、それがあなたを愛さぬ理由にはなりません」
「王……思い出されたのですか?」
「姉上がため込んでいた気持ちを全て吐きだしたせいでございましょう」
 姉に向かってサクヤヒメが優しく呟いた。アメツチ王はそれに同意するように頷いた。
「王……。わたしを許してくれるのですか?」
 イワナガヒメは、アメツチ王にしなだれて、泣き崩れた。
「もちろんです」
 永く永く止まっていた時間がようやく動き出した瞬間だった。ようやくこの神達の神話が終わった、いや、それは新しい神話の始まりなのかも知れない。
「イワナガヒメ。わたしはあなたの心の裡を知っておりました。だからこそあなたがわたしに呪いをかけた時もそれを甘んじてお受けいたしました。それはいつかあなたの怒りや無念が解ける日が来るまで待とうと決心したからでありますよ」
「それを知ってでおいででしたと?」
「確かに婚儀の前夜わたしがサクヤ姫と逢ったのは事実でしたが、後ろめたいことはありませんでした。しかしあの時わたしがどんな申し開きをしようと、あなたはわたしを許すことはなかったでしょう。そして、ニニギノミコトによって傷つけられたあなたの心を癒すにはそれ相応の時間が必要だろうとわたしは思ったのです。さすがにここまで長い刻が必要だったとはわたしも思ってはおりませんでしたが」
「なんと……」
 イワナガヒメは目を見開いた。
「最初からわたしのことを見透かされておいででしたか……わたしは自分のことを恥ずかしく思います。わたしは姿だけではなく心も醜い外道として身を堕としてしまったのですね……」
「そんなことはありませぬ。ご覧なさい。月に照らされた貴女の今のお姿を」
 アメツチ王はイワナガヒメを抱き起こし、富士山の方向を指さした。それは、月明かりに照らされた富士山の姿であった。それは、まさに世界遺産登録を前にした絶景であり、世界も認める美しさであった。
「お顔を上げなさいませ。姿の美しさだけで言えば、今の貴女のお姿は葦原中国一でございます」
「わたしを美しいと仰っていただけると!?」
「はい。しかし、今の姫のお心ではわたしは貴女を愛することはできないでしょう。妹君をお許しなさいませ。そして、ニニギノミコトの子孫達もお許しなさいませ。その許しがあれば、きっとツキヨミはあなたをも許すでしょう」
「わかりました。ここまで待っていただいた、王を裏切るようなことはできますまい。
 サクヤ。わたしはあなたを信じましょう。あの夜二人には何もなかったことを。
 そして、あなたの姉を許しておくれ。たった一人の妹のことを信じられなかったこの姉を。そして、あなたに嫉妬してしまったこの姉のことを」
「もちろんですわ、姉上。そして、わたしの夫であるニニギノミコト、そしてその子孫達のこともお許しください」
「そうですね。わたしは皆を許します。そして、皆に許しを請うでしょう」
 二人は手に手をとって、お互いの積年の想いを解放した。イワナガ姫を包んでいたドス黒い障気のようなものがどんどんと晴れていくようだった。「お互いを許し合う」という心の和解が神にとってもどんなにか難しいことだったのか。
 サクヤ姫は姉の手を離し、再びアメツチ王の方へと導いた。
「月の王、アメツチノオオワカミコよ、わたしの悪行がこの程度で許されるとは思っておりませぬ。しかしできることでしたら、わたしのことを許してほしい。刻を戻すことは叶いますまいが、また一からやり直させてはいただけませぬか?」
 アメツチ王は、イワナガ姫の手を取り、優しく微笑んだ。
「はい。また一からやり直しましょう。わたしはすぐに月に戻り、ツキヨミを説得いたしましょう。どんなに時間がかかったとしても、あなたを再び月にお連れいたします」
 イワナガ姫はアメツチ王の元にしなだれて号泣した。
 号泣するイワナガヒメ(姿はちいちゃん)を抱き起こし、アメツチ王(姿は亮くん)は抱きしめた。
 (ぎゃー!)
 わたしはそれを直視できなかった。……はずなのに、サクヤ姫はこの二人を微笑ましく眺めている。だからわたしの視界にも入ってしまう。わたしは心の中で絶叫をあげるしかできなかった。
「姫、もう泣きなさるな。その度に地が騒いでしまう」
 それから、アメツチ王(姿は亮くん)は両の手でイワナガヒメ(姿はちいちゃん)の頬に流れる涙を拭い、

 口づけをした。

 

 そこからわたしの記憶は途切れた。



 次に気がついたのは、先生の別荘のベッドの上。傍らにはちいちゃんが座っていた。
「瑠璃ちゃん、気がついた?」
 ちいちゃんは心配そうにわたしを覗き込んだ。外はまだ真っ暗だった。
「今、何時?」
「ん? 二時くらいかなー? 瑠璃ちゃんが起きなかったら、わたしも寝ちゃおうかなーって思ってたとこ。多分サクヤ姫に憑依されてて疲れただけじゃないかって、浦城先生が言ってたー」
 口調はいつものちいちゃんに戻っていた。
「で、どうなったの?」
 ベッドに起き上がって、わたしはちいちゃんに気になったことを聞いた。彼らはどうなったのだろうか。
「んー。わたしもよく分かんないんだけどー、ふたりともそれぞれのところに戻ったみたい。あれから地震もなくなったよ」
 ふたり?
「ちいちゃんは、どこからどこまで覚えているの?」
 ちょっと心配になって聞いてみた。
「ん? おイワちゃんが入ってから? あとは全然覚えてないなー。気がついたら、先生の車の中だったし。全部終わったって言われただけだし。詳しくは明日の朝説明してくれるって、先生がー」
 わたしはため息をついた。ほっとした。ちいちゃんの場合、憑依されている間の意識はなかったらしい。『ふたり』ということは、亮くんがアメツチに憑依されたことは知らないということみたいだし。わたしは胸をなで下ろした。どうしてわたしは安心したのんだろう? と、わたしは改めて思い出す。
「あ……」
 アメツチ王(姿は亮くん)とイワナガヒメ(姿はちいちゃん)が口づけをするシーンをはっきりくっきりと思い出した。
「ん? どうしたの? 瑠璃ちゃん?」
 ちいちゃんが心配そうに訊いた。
「ううん、なんでもないなんでもないの」
 わたしは必死に誤魔化そうとした。顔が火照るのが分かった。ちいちゃんがあの時のことを覚えていないことを認識した時に安堵したということは、つまりどういうことなのだろう? 憑依された二人が意志とは関係なくそういう行為に及んだことに対して、知らない方がいいと思ったのだろうか。それとも、嫉妬……なのだろうか。わたしは自分自身が恥ずかしかった。ちいちゃんは亮くんのことが好き。だけどわたしが亮くんを好きなのを知っているから、わたしたちが相思相愛であることが嬉しいと言ってくれた。翻って、わたしはちいちゃんと亮くんが口づけしているのを見て発狂しそうになった。二人はただ神様に憑依されていただけだというのに。こんなに心が広いちいちゃんと、心の狭いわたし。わたしは自責の念にとらわれた。
「そう? 瑠璃ちゃん、また寝られそう?」
「うん、大丈夫だと思う」
 と言ったのはいいけれど、さっきのシーンを思い出したせいで、なんだか目が冴えたような気もする。
「一緒に寝よっか?」
 昨日の夜と同じようにちいちゃんはそのまま私の隣に潜り込んできた。
「ここ数日、毎日がドキドキだったねー。でも、なんとか無事に終わってよかったね」
 ちいちゃんはなんとも感慨深くそう言った。
「わたしはもうドキドキどころじゃなかったよ-! もうこんなの二度とゴメンよー」
 わたしは少し冗談めかして言ったけれど、本気でこういう事件には二度と関わりたくはなかった。全部終わったと先生は言っていたらしい。となると、サクヤ姫ももうわたしの中にはいないのだろうか。できればそうであってほしいとは思う。
「そうね。瑠璃ちゃんは大変だったよね。頑張った、頑張ったー。いい子いい子ー」
 ちいちゃんはわたしの頭を撫で撫でしてくれた。こそばゆかったけれど、嬉しかった。
「わたしが瑠璃ちゃんの立場だったら、同じようにできなかったと思うよー」
「そ、そんなことないよ……わたしは何もできなかったし」
「ううん。多分わたしだったらあんなに我慢できなかったと思う。途中で放っちゃうよ。憑依されるって、あんなに大変だとは思わなかったもの」
 ちいちゃんも相当我慢していたんだ。
「その間何が起こったかは全然覚えてないけど、とにかく気持ち悪かったってことだけは覚えているのねー。なんていうかね、とにかくイヤなことばっかり思いついて」
「え? そうなの?」
 イワナガヒメの怒りや嫉妬、そんな感情がちいちゃんの心に逆流してきたのかも知れない。何千年にも及ぶ黒い感情はどれほどのものだったのだろうか。
「瑠璃ちゃん、ごめん」
「え? ど、どうしたの?」
 いきなりちいちゃんに謝られて驚いた。
「憑依されている間、わたし沢山のことを考えていたの。正直に言っちゃう」
「う、うん……」
 何を言われるのだろうかとわたしは身構えた。
「亮ちゃんのことね。わたしやっぱり好きなんだと思う」
 思いも寄らぬ言葉でわたしは一瞬目が泳いだと思う。ああ、やっぱり、という思いと、そんな昨日と言っていることが違うじゃない、という思いとが交錯した。
「ううん、好き『だった』かな。過去形なの。でも、その気持ちはまだ埋み火みたいに残っていて、それが悪い方へ悪い方へ考えが流れていって、どうしてわたしがこの気持ちを譲らなきゃならないのって、疑問になって、瑠璃ちゃんなんか大嫌いって思うようになって、でも、そんなこと言ったら、自分からそういうことを言ったんじゃないって、結局自分を責めることになって、もう収集つかなくなっちゃって」
 ちいちゃんがいつもとは違う口調でまくし立てた。イワナガヒメの気持ちがなんらかの形で影響しているのか、それとも、これが本来のちいちゃんの想いだったのだろうか。
「偽善者面してる自分が許せなくて。そんな気持ちが、逆に亮ちゃんも嫌い、瑠璃ちゃんも嫌いってなって。どんどん誰も嫌いになっちゃうの」
 そう言ったかと思うと、ちいちゃんがブルブルと震え始めた。わたしはちいちゃんの手をとって握りしめた。
「でもね、その気持ちを抑えてくれたのが亮ちゃんだったの。夢見てたのかな? 大丈夫だよって言ってくれた。それから、瑠璃ちゃんも出てきてね。二人して、大丈夫だよ、大丈夫だよって」
 急に震えが収まった。わたしはついに、それは夢じゃないの、本当にあったことなんだからとは言えなかった。
「で、結局わたしは三人でいることが一番居心地がいいんだって気がついたの。だから、この関係が崩れることが一番怖かったんだって。
 でもね、一瞬でも瑠璃ちゃんのこと嫌いになった、ってことを本当に謝りたかったの」
 なんて素敵な娘なのだろう。確かにイワナガヒメの影響で一時的に暗い感情に囚われてしまったのだろうけれど、それを正直にわたしに話してくれて、それでいて結果的に全てをはねのけてしまったのだから。
「そんなことない。そんなことない。わたしだって、ちいちゃんのこと嫉妬したり、何度もしたもの。お互い様だよ」
 お互い親友として付き合ってきたけれど、ここまで腹を割って話したことはなかったかも知れない。
「そうなの?」
「そうだよ。だって、二人で話している時なんて、まるで夫婦みたいに、あうんの呼吸だし、わたしなんて間に入れる隙間ないなんて思ってたし」
「夫婦みたい……だなんて。でも確かにそうかも。わたしって、亮ちゃんの近くに居すぎたのかも。だから恋愛感情にならなかったんだと思う。亮ちゃんも同じなんじゃないかなー」
 ちいちゃんはくすっと笑った。
「だから、昨日の夜ここでちいちゃんに、嬉しいって言われて、正直ホッとしたのよ。だけど、やっぱり本当かなって思ったりしてるわたしがなんかイヤだったの。でも、今、ちいちゃんの本当の気持ち聞けた気がしてる」
「あははー。ぶっちゃけちゃったもんねー」
 大笑いするちいちゃんにわたしももらい笑いした。もうちいちゃんの手は震えてはいなかった。
「あー、でもこれですっきりしたー」
 破顔するちいちゃんにわたしは和んだ。

(作曲:てけさん)

2013年8月12日月曜日

「竹取の」第28夜<二十八夜>

(扉絵:ららんさん)
(作曲:てけさん)

「今度のは大きいぞ!」
 浦城先生が叫んだ。わたしたちもすぐさまテーブルの下に隠れる。さすがに今度は美貴さんもキッチンで小さな叫び声を上げた。食器が大きな音を立ててガチャガチャいった。
「富士山が噴煙を上げてます!」
 皆は激しい揺れに耐えながら、亮くんが指差した先を見た。夕日に照らされ、赤く染められた富士の山頂近くから細くはあるけれど、黒煙がたなびているのが見えた。その風景はまるで怒りに満ちた岩神姫がわたしたちに何かを訴えかけようとしているかのようだった。
「姫、これからどうすればいいんですか?」
 揺れが収まると、先生は姫にそう尋ねた。揺れは激しかったけれど、時間としては長くはなかった。
「姉上を鎮めなければなりません。裏浅間大社に向かってはいただけませんか? 富士殿に助力を求めなければなりません。恐らく信嗣さんの肉体は滅びてしまってはいるでしょうが、その魂の存在が大社の方向に感じられます」
「信嗣さんの魂があそこにあると? しかし、あの人は姫を襲おうとしたのですよ?」
「それも、本当のことを全て理解すれば必ず味方となりましょう。あの方はわたしの使徒でもあるわけですから」
「まあ、確かに。……分かりました。では、すぐに向かいましょう。段逆くんと、茅衣子ちゃんはここで美貴さんと一緒に待っていてくれ」
「いえ、俺も行きます!」
「わたしも!」
「しかし、キミたちをこれ以上危険な目に遭わせるわけには……」
 先生は珍しく躊躇した。
「俺は……その……竹泉と約束したんです。『必ず護る』って。……それに、先生一人では何かと不便なはずです。絶対に足手まといにならないうようにしますから」
「瑠璃ちゃんはわたしの親友です。わたしも必ず一緒にいます! 絶対着いて行きます!」
 わたしの心は感涙に咽んだ。もしこの時体が言うことをきいていれば、絶対泣いたと思う。何より亮くんの思いが嬉しかった。
「いいお友達をお持ちね、瑠璃さん……」
 そんな二人を見て、姫はそう呟いた。それを聞いて、先生は仕方ないなという顔をした。
「二人とも若いというか、青いな……。まあいい、分かった。けれど、二人はけっして無理はしないこと。特に段逆くんは昨日みたいな無茶はしないと約束してくれ」
「わかりました」
「はーい! よかった。ね、瑠璃ちゃん?」
 ちいちゃんは姫に向かってそう言った。わたしは返事したかったけれど、できなくてもどかしかった。
「瑠璃さんも喜んでますよ? ちいさん」
 姫はそう言って、ちいちゃんに微笑んだ。

 裏浅間大社は想像以上にひどい有様だった。元々が廃墟であったとは言え、残った残骸はほぼ瓦礫となり、元々の姿は見る影もなかった。大社だけではなく、その周りに多い茂っていた草木も悉くなぎ倒され、昨夜の争いがいかに激しかったかを物語っていた。唯一そこに大社があった痕跡としては、粉々になった木々や木っ端だけであった。それも大半は吹き飛ばされたのか、てんでバラバラになっていたのだけれど、その中に元は鳥居であったであろう部分が手前に落ちていて、それを目印になんとか裏大社を探し当てたところだった。日はかなり沈みかけていて、場所の特定に時間がかかったのもある。その間もひっきりなしに大小の地響きと揺れがわたしたちを襲った。
 姫は大社があったはずの場所に向かって膝を折り祈り始めた。三人とわたしは黙ってその様子を見ていた。
「歌? もしくは祝詞のようなものでしょうか?」
 亮くんは姫の口から奏でられる美しい旋律を耳にしてそう言った」
「そうだな。けれど、ボクも聞いたことのない言葉だ。これが神の歌なのかも知れないな」
 しばらく姫が祈りを続けると、地面からぽぅっと鬼火が現れた。昨日の夜見た、信嗣さんの光と同じだった。その火の玉はやがて地面に広がり、今度は縦に伸びていく。ちょうどわたしたちと同じくらいの大きさになると、人の形になった。それは、まるでホログラムのような透明な姿で、信嗣さん式神と同じ、若い男の姿だった。
「姫、お目覚めでございますか。昨夜は大変失礼をいたしました」
「いえ、使徒とは言え300年もの長い間ご苦労であった。今宵は何千年も続いたこの悲しい宿命を終わらせる。手伝ってはくれまいか?」
 二人は主と従者との関係がはっきり分かる立ち位置で相対峙した。信嗣さんは片膝を折り頭を垂れた。姫は立ち上がりそれに応えた。
「もったいないお言葉を。富士を鎮めるためでしたら、この身が滅びようとも、魂が黄泉の国に参ろうが、姫の御為に尽くす所存にございます」
「相すまぬ。では、姉上をここにお呼びすることはできるであろうか?」
「ここにでございますか? 寄り処がございますれば」
「寄り処が必要か……?」
「は、大社がこのような姿になってしまいました故。大変申し訳ございませぬ。大宮の大社に参りますれば、降臨も可能かとは存じますが」
「いや、それはそなたのせいではありませぬ。しかし、大宮まで行っている時間はありますまい」
 姫は少し困った顔をした。
「どうしたのですか?」
 姫の困った顔を見て、先生が訊いた。
「姉上を降臨させたかったのですが、この有様では無理らしいのです。それ以外の方法としては、人に降りてきてもらう必要があるというのです」
「人に降りて……つまり、誰かに憑依させるということですか?」
 姫は頷いた。
「じゃあ、わたしがー!」
 ちいちゃんが毅然とした態度で手を挙げた。
「いや、そんな訳にはいかない。ボクがやろう」
「いえ、先生はダメです。何かあったときに運転できる人がいなければなりませんから」
 亮くんの言葉にそれもそうだと先生は頷いた。
「では、お願いしてもよろしいですか?」
 ちいちゃんに向き合って、姫は最後の確認をした。ちいちゃんは多少への字口で大きく頭を縦に振った。両手は力強く握られていた。姫が信嗣さんに向かって目配せをすると、薄火に包まれた彼は一旦空に舞い上がったかと思うと、また舞い降りてきてちいちゃんを取り巻くようにその周りを回り始めた。その光の速度が上がっていくに従って、ちいちゃんの表情は変わっていった。力が篭っていた手が緩み、目を閉じた。火の玉が速度を緩め、また先程の位置に戻ったころには、ちいちゃんはまた目を開けた。
「お久しぶりでございます、イワナガの姉上」
 姫はその場に跪いた。
「何百年振りかの?」
「300年ほどでございます。しかしながら、サクヤとして全ての記憶を取り戻しての対面は数千年ぶりのはずでございます」
「そうか……。記憶の欠片を取りに奥宮まで参ったのか」
「はい、あのへこりぷたという天を舞う乗り物にて参りました。天の羽衣がなくても参ることができるようになるとは、時代も変わりましてございます」
 姫は平身低頭にて姉の憑依したちいちゃんに相対した。
「数千年を超えて、姉妹が再会を果たした場面に立ち会えるとは……」
 先生は興奮を抑えられないように呟いた。
「して、姉上。一つお伺いしたいことがございます」
 サクヤ姫が立ち上がって姉に目線を戻した。その顔は怒っているのか、若干憮然とした表情であった。
「何故わたしの記憶を封印なさったのですか? そして、月の王に呪いをかけましたね? 何故ですか?」
「そのようなこと、貴女の方がよく分かっておるではないか?」
「分かりませぬ!」
 まるでそれは、何世紀にも亘った姉妹喧嘩だった。
「ならば言おう。お主たちがわたしを謀ったからではないか。天孫と共にわたしを嘲り、そしてわたしの主たる王を誘惑し貶めた、貴女が憎かった! だから二人に永遠の苦行を与えたのです!」
「姉上!それは誤解でございます。サクヤは決して姉上を哂うことなどしませんでしたし、王を誘ったこともございません」
「嘘を申すな!」
 イワナガ姫はサクヤ姫の胸倉を捕まえて、その頬を平手打ちした。痛い。
「嘘ではございませぬ! 王に聞いてご覧なさいませ」
 サクヤ姫はそれでも動じなかった。わたしは泣きそうになったけれど。痛いのだけ共有されるとか酷い。ただ、その痛みから、イワナガ姫が本気で叩いたわけではないのはわたしにもとれた。つまり、イワナガ姫の懐疑は確証のあるものではなく、単に感情の縺れからこうなったのではないかと、わたしは直感的に感じた。
「王も同じことを仰せになられましたが、そんなことを信じられるわけもない!」
「では、ここに王を連れて参りましょう。長年の誤解を解くべき時が来たのです!」
「やめなされ! 王を覚ましてはならぬ!」
 イワナガ姫は胸元をさらに引いた。
「どうしてでございますか!?」
「それは……」
 一瞬イワナガ姫は口ごもった。
「いつまでも姉上が王を縛っていては何も変わりませぬ! それに、このままではわたしたちが諍いをするたびに葦原中原の者達は悲しい思いをするのですよ!」
 そう言うかと思うと、サクヤ姫はきっと、亮くんの方に顔を向け。
「お願いです、王の寄り処となってもらえませぬか?」
 亮くんは一瞬で意味を知ったらしく、すぐに頷いて、信嗣さんに向かって行った。信嗣さんも一つ会釈をすると、先程の儀式と同じく亮くんを光で包み込んだ。
「やめなさい!」
 イワナガ姫はサクヤ姫から手を離して亮くんの方に進もうとしたが、それをサクヤ姫が抱きついて止めた。そして儀式が終わるまで、サクヤ姫はものすごい力で姉を抱きしめた。わたしのどこにこんな力があったのかと思うほど。けれど、信嗣さんの儀式が終わりを告げる頃、サクヤ姫はその力を緩めた。それに呼応するかのように、イワナガ姫はその場に崩れた。
「王。お久しぶりでございます」
 サクヤ姫はその場に膝をついた。
「ここは……? 貴女はサクヤ姫なのでございますか? 王とは何のことでございますか? お戯れを。わたくしはアメツチにございます。貴女様の従者でございます。お直りください」
 どうしてアメツチ? わたしは一瞬混乱した。亮くん、いや、月の王に憑依された彼がサクヤ姫に手を差し伸べた。つまり、アメツチが月の王? え、一体どうなってるの?
 サクヤ姫は顔を上げると、懐かしいものを見るかのような表情をした。
「アメツチノオオワカミコ、月の王の魂を持つ者よ。今その呪いを解きましょう」
 そう言うと、サクヤ姫は右手を差し出した。その手から薄い光が発光し、やがて亮くんを包み込んだ。背後でイワナガ姫の叫び声が上がった。

(作曲:てけさん)