短編集「哀しき未亡人」

即興小説から、お勧め作や、比較的評判の良かったものをサルベージ。
現在のところ、加筆訂正はせず、そのまま載せるつもりです。
また、お題、必須事項、制限時間等も併せて載せます。

哀しき未亡人

これもオチとしては、及第点だと思う作品です。
お題、必須要素もうまく拾えたと思っています。

お題:プロの貯金 必須要素:時限爆弾 制限時間:30分 読者:68 人 文字数:1356字

 あたしの彼は金融関係。デリバティブなんて、舌噛みそうな分野らしいけれど、あたしはさっぱり何をやっているのかは分からない。とにかくお給金がいいってことだけ。とは言ってもここ数年は株式市場が低迷していたため、年によっては普通のサラリーマン程度だったときもあったりしたらしけれど。ただ、今年に入ってからアベノミクス様々で、市場が上向きになったため、また収入も元に戻ったという話。給料は良くてもその分働かされるみたいで、ほぼ毎日が残業で、そのくせ早朝から海外市場の動向を見るためと言いながら始発で出発する。週末は週末でセミナーやら会合やらで出かけることも多く、あたしとはほとんどすれ違い。それでも、毎月一度は超高級レストランで食事には連れて行ってくれるし、お買い物は彼の名義のクレジットカードを自由に使わせてくれるので、特に問題はないとは言えるんだけど。彼は仕事が多忙なので、仕事以外のことはあたしがほとんど面倒をみていた。家事洗濯はもちろんのこと、役所関係や身の回りについても全て。
 ただ最近心配なのは、体調があまりよろしくない事。時々目眩がするとか、頭痛がするとか、酷い時には急に吐いたりして。すごく心配。病院に行くよう薦めるのだけれど、なかなか時間が取れないとかで、診療にかかることができずにいた。いくら若いからと言って、病気にならないとは限らないので、あたしはずっと心配していたのだけれど、その心配は的中した。
 ある日の午後、彼の会社から連絡が入った。彼が会社で倒れたと。一応あたしは婚約者として、連絡先に登録されていたらしい。救急車で運ばれ、検査の結果、脳溢血だと診断された。彼の両親は彼が若いうちに亡くなっていて、身寄りがなかったため、あたしだけが呼ばれた結果となった。医者からはほとんど意識がなく、もって数週間だという。若いのに大変ですな。とその医者は言った。頭に時限爆弾を抱えていたようなものですと、喩え話をした。

 そして、彼はあたしを残して3週間後にあの世に旅立った。葬式ではあたしは号泣してみんなの同情を買ってあげたわ。演技もわたしの仕事の一つですもの。同僚や上司、その奥様方もあたしに落ち込まないでと励ましてくれたわ。そりゃそうよね、新婚でいきなり夫を亡くすなんて、こんな不幸はないものね。



 準備万端のあたしに死角はなかった。すでに先月婚姻届は提出済みで、生命保険も億単位でかけてある。彼に身寄りがないことはすでに興信所で調べ済み。遺産を渡さなければならない親族はいない。さすがにこんなに早く逝ってしまうとは思わなかったけれど、宝くじよりかは当選確率の高い博打みたいなもので。これがあたしのプロとしての実力。これまでに、死別した旦那は3人。もちろんあたしが手をかけるほどバカではない。事前に両親の病歴、家系の寿命や親族一同の関係などを丹念に調べ、高級でありながら、元々の寿命が短かったり、仕事が厳しく短命になりそうな男を調査しては近づいてきただけ。死因はもちろん皆病死。毎回保険金が高額な為、そろそろ警察も目をつけてきそうだけれど、あたしは一切犯罪になるようなことはしていないから後ろめたいことは一切無い。これこそプロの仕事だわよね。



 さて、次の貯金は誰にしようかしらね?

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