2014年10月27日月曜日

「Nコン!」第18コーラス目「衝撃!」

 新栄中学の校門に到達する頃、心地よい春風にのって、かすかに歌声が聞こえてきた。合唱部の歌声なのだろうことは真湖にも分かった。いよいよ、全国レベルの歌が聞けると思うと、否が応でも緊張してきた。
 雅がインターホンで職員室に連絡すると、扉が開いた。
「君たちはここで待ってて」
 皆にそう言って、一旦先に玄関に入って行った。
 その頃には合唱部の歌声が消えていた。休憩時間なのだろうか。
「なんか緊張してきた」
「真湖ちゃんはこないだっからずっと緊張しっぱなしだね」
 翔がいつもより若干柔らかめな笑顔でそう言った。
「だって、全国レベルなんだよ!しかも、北海道の。そ、それに、ずっとってことはないよ、さすがに新歓の時は緊張したけど……さ」
「適度な緊張は交感神経を活発にさせるからいいけど、過度な緊張は発声の妨げになるから、煌輝(きらめき)さんは色々慣れておかなきゃダメだね」
 栗花落(つゆり)はそう言って笑った。
「こうかん……交換神経ですか」
 真湖はしばらく誤解したままだった。
「全国レベル、全国レベル……」
 真湖が念仏のように呟いた。
「にしても、全国レベルって、どんなんだろうね」
 神宮が気のなさそうに言った。
「神宮先輩は見たことないんですか?」
 乃愛琉(のえる)が聞く。
「去年はNコン地区大会敗退だったからね。一昨年は参加してないし。あれ、一昨年って、全道行ったんだっけ?」
「行ってません。銀賞止まり」
 現(うつつ)が残念そうに答える。
「それでも、銀賞は取ったんですね」
 以前に真湖とネットで調べていたので知ってはいたが、乃愛琉はわざと明るめの声を出す。少なくとも賞をとっているであれば、それはそれで素晴らしいことだ。
「去年一昨年は緑中が全道。だからわたしも緑中を含めなければ、まだ全道レベルの学校でさえ、直接は拝んだことないのよね」
「全国って言ったら、まるっきり違うんだろうな」
 栗花落が厳しい顔をした。
「練習も厳しいのかな? 隊列組だりとかして?」
 神宮の想像は大体斜め上。
「わたしもテレビとか動画サイトとかでしか観たことないけど、あのハーモニーっていうか、一致感はすごいよね。同じ中学生とは思えない」
「田舎から来たって、バカにされないかな」
「バカにされても仕方ないわね。全道にさえ出てない学校のことなんて」
 栗花落の心配に現は自虐的にそう言った。
「なんか、恐そう」
 乃愛琉がそう呟く。
「雅先生がどういう交渉したかは分からないけど、見学許可するってあたりで、うちらのことどう見てるかなんて明白でしょ」
「どういう意味ですか?」
 真湖は不思議な顔をした。
「眼中にないってこと。つまりライバルとしては見てないってこと。そうじゃなかったら、練習風景見せたりしないでしょ」
 現がけんもほろろにそう言った。


「お待たせ」
 しばらくして、雅が戻ってきた。
「見学オッケー。但し、そんなに長い時間じゃないから、しっかり聴いておくんだよ」
「はい!」
 雅を先頭に音楽室に入ると、すでに合唱部の生徒たちはきっちりと整列していた。35、6人はいるだろうか。ようやく20人を越えたばかりの西光中とは大差がある。
「石見沢西光中の合唱部の皆さんです。今日は私たちの練習を見学されたいそうです。はい、挨拶」
 指導の先生がそう言うと、
「よろしくお願いします」
 と、一同に揃って挨拶した。こんな挨拶でさえ、息が揃っている。
「あ、こちらこそ……よろしくお願いします」
 対して、真湖たちはてんでばらばらの挨拶で、さらに大きな差を見せつけられた。
「では、1曲やりましょうか」
 すでに練習曲は決まっているらしく、指導教師がタクトを振ると、伴奏者がピアノを弾き始めた。
 真湖たちは、その場で黙って聴き始めた。
 曲は数年前にNコンの課題曲になった「虹」。森山直太朗がNコンのために書き下ろした曲であり、今でも人気の高い合唱曲の一つである。
 射原兄弟のどっちかが好きな曲に挙げていたなと、真湖は思い出した。


 彼らの合唱は、発声、音程、ハーモニー、どれをとっても素晴らしかった。抑揚、強弱の付け方、感情表現、歌詞に対する思いの深さ。それを聴く者に伝えようとする姿勢。同じ中学生とは思えない。
 このままNコンに出ても優勝するのではないかというくらいの完成度だと、現でさえも感じた。テレビやネットを通して聴くのとは全く次元の違う世界。ましてやまだ4月。少なくとも去年主力だった3年生はいない、もしかすると新入生も含まれているかも知れないのにだ。現は完全にノックアウトされていた。
「こんなのに勝てるはずない」
 合唱の間に何度この台詞を言おうと思ったか。しかし、雅のおかげでせっかく見学が許されたのに、そんな愚痴をここで言うべきではないと思うのと同時に、やっぱり負けたくはないという気持ちも相まって、への字口は開くことはなかった。


 合唱が終わると、真湖たち西光中合唱部全員が一斉に拍手をした。新栄中合唱部はそれに会釈で応える。その姿勢さえ、ほぼ同時に同じ角度に保たれている。
「いやぁ、素晴らしい。さすが常勝校」
 雅が賛辞の言葉を述べた。
「お恥ずかしい。まだまだこれからですわ。なんとか来年のコンクール目指してまとめていきたいとこなんですけど」
 指揮をしていた担当の指導教師が頭を下げた。その物言いに真湖は何かひっかかった。
「色々と気になる点は多々ありますよ。雅先輩ならお気づきかとは思いますが」
 それから、生徒達に気遣うように小さい声で、そっと雅に囁く。
「とんでもない。この時期にこれだけの完成度なら申し分ないですよ」
 雅は新栄中の生徒に聞こえるように大仰に言った。
「良いものを聴かせてもらいました。
 みなさん、ありがとうございました」
 雅は新栄中の生徒に向かって頭を下げた。


 見学は1曲だけで終わった。雅を先輩と呼んだ指導教師は慰留をしたが、雅が辞したのだ。
 両校共に深々と挨拶をしてから、真湖たちは音楽室を出た。
 音楽室を出て、玄関先に向かうまでの間、皆一同に無言だった。
 とにかくレベルの差を見せつけられて落ち込む現と栗花落。初めての全国レベルを聴けて緊張が未だ解けない1年生3人。そして、何を考えているのか分からないけれど無言の神宮。
「さすがに全国レベルですよね、上手だったー」
 ようやく口を開いたのは真湖だった。
「あれでも、2軍なんだよ」
 雅は淡々とそう言った。
「ふえぇ? 2軍? って、なんですか?」
 真湖は変な声を上げた。さっき感じた違和感はここだったのだ。
「あれは、ほとんどが2年生で、実際に『今年』全国に行くメンバーはここでは練習しないんだ」
「え?」
「3年生主体の1軍の精鋭はまた別メニュー組まれてて、今日ここには来ない。時々2軍の指導とかするのに来る程度だと」
「Nコンは出場人数35人までって決まってるからね。大所帯の部だと、2軍制度があったって噂は聞いたことあるけど、今時まだあるなんて」
 栗花落が補足しながらも、驚きを隠せない。
「新栄中学は全校生徒900人を超す札幌でも1、2位を争うマンモス校でね、さらに近年の合唱部の活躍から、合唱好きな子が市内各地から集まるらしい。引っ越ししてまで入学する子もいるって」
「部員が多いってのは聞いてましたけど、そこまでとは」
 さすがの現も面食らったようだ。
「じゃあ、1年生はどこにいるんですか?」
「あそこだよ」
 雅が、グランドでランニングしている生徒達を指した。
「入部したての1年生は基礎体力から。グランド10周に、ウサギ跳び、腹筋100回やったあと、発声練習で始終する。楽譜持たされるのだって、早くて今年の終わりくらいじゃないか。
 さっきの2年生もようやく歌い始めて半年満たないはずだよ」
 そんな説明も耳にしないまま、真湖は玄関を出て、そちらに向かって走り出した。
「あ、煌輝さん、待って!」
 雅の制止も聞かずに真湖は一直線に1年生の団体に向かって走った。
「あのー、すみません!」
 突然真湖に呼び止められた1年生数名が何事かと振り向いた。
「はい? なんでしょう?」
 うち、一人が返事した。
「あたし、煌輝真湖っていいます。石見沢西光中の合唱部に入部したばかりの1年生です。今日はみなさんの先輩方の練習を見学させてもらったんです」
「は、はあ。先輩って、2軍のですか?」
「はい! とっても上手ってびっくりしました!」
「石見沢って……ええ、わざわざ石見沢から?
 うん、先輩たち上手。わたしも早く先輩たちみたいに歌いんだけど」
「みなさんは、歌わないんですか?」
「わたしたちはまだ入部したばかりだからね。こうして、基礎練習」
「そんなんで楽しいの?」
「そりゃ、楽しくはないけど、早く1軍に入ってNコンに出るって目標があるから、頑張れるし」
 その生徒は笑顔でそう言った。
「こらぁ、そこ何やってる!?」
 グランドの向こうで、教師が怒鳴った。彼らの指導教師らしい。
「あ、ごめんね、行かなきゃ。じゃ、どこかで会ったら」
 その子が差し伸べた手を真湖は握手で返した。

「こらこら、勝手にその辺動き回らない」
 ようやく追いついた雅が真湖を取り押さえた。
「すみません、お邪魔しました」
 頭をペコペコ下げながら、真湖を連れてグランドを後にしようとした時、
「あれぇ、雅じゃねぇか?」
 さっき怒鳴った指導教師が雅の顔を見て、そう言った。雅は一瞬ちっと舌打ちをした。
「あ、佐伯先輩、どうもでした」
 雅は深々とその教師に頭を下げた。
「どした? 珍しいなこんなとこに……それ、誰? もしかして、合唱部の指導なんかしてるわけじゃないよな?」
 雅を追うように現達が駆け寄ってきたを見て、佐伯という教師は何か合点がいったらしい。
「ほう。どこの学校?」
「石見沢西光中です」
「石見沢? また随分田舎に引っ込んだもんだな」
「故郷ですから」
「そっか。じゃあ、あれか、三越先生のとこか?」
「はい、そうです」
 明らかに二人の間には何かの確執があることは誰が見ても明らかだった。
「まあ、遺骨でも拾ってやるんだな。旧石器時代のな。あはははは」
 明らかに失礼な物言いだったが、雅は何も口答えはしなかった。
「じゃ、失礼します」
 雅は佐伯という教師に頭を下げて、真湖を連れてそのまま踵を返した。
「みんな、帰るよ」
 真湖の手を引いてグランドを出る雅に一同は無言で着いていった。


「やっぱり、人数が多くないとダメなんですかね?」
 帰り道、最初に口を開いたのは乃愛琉だった。
「そんなことはないよ。例えば、6人で県大会金賞だった学校もあったくらいだからね」
 栗花落(つゆり)は意外に物知りだなと乃愛琉は思った。
「6人でですか?」
「まあ、女子だけの合唱部だったってのも特殊ではあるけど。とにかく人数は絶対条件ではないってこと」
「やっぱり、練習量よね」
 現がさらりと言った。
「日曜日だってこれだけ練習してるんだし。さっきの2軍の合唱聴いたって、去年から死にものぐるいで練習してきたって感じ、はっきり分かるもの」
「練習しても、下手な奴は下手だけどな」
 神宮が茶々を入れる。
「神宮くんみたいに才能ある人には分からないわよ。そういう、神宮くんだって、新栄中にいたら、今だったら、多分中の上くらいだと思うわ」
「うん、まあ分かってるけど」
 さすがの神宮にとっても今回の遠征は効いてはいたらしい。若干殊勝な言い方だった。
 皆がそんな感想を述べ合っている間も、真湖と雅は始終黙っていた。何故か流れで手を繋いだままなのも気づいていない様子。
「真湖ちゃん大丈夫?」
 あまり長い時間二人が黙っているので、乃愛琉が心配になって真湖に声をかけた。
「え? ああ、うん。大丈夫」
 気がつけばもう地下鉄の駅まで歩いてきてしまっていた。そんなに長い時間だったのか。
「あ、ごめん、もういいよな」
 雅はそう言って、ようやく真湖の手を離した。
「これからどうします? もし良かったら、ボクの知り合いのところで昼ご飯でも食べに行きませんか?」
 神宮がそう提案すると、皆も同意した。すでに時計は2時を過ぎようとしていた。


 一同はそのまま地下鉄に乗って、さっぽろ駅に向かった。
 途中、元気のない真湖に乃愛琉が気がついた。
「真湖ちゃん、大丈夫?」
「あ、うん、大丈夫」
 心ここにあらずな表情で答える真湖。
「ボクが言うのもなんだけど、真湖ちゃん、元気ないよ」
 翔も心配だったのか、そう声を掛けたが、当人も相変わらずの雰囲気で、二人ともにどんよりとしていた。真湖は翔に言葉も返せずにいた。
 さすがにあれだけの実力を見せつけられたのだから、仕方ないかとも乃愛琉は思った。全国レベルのハードルの高さは乃愛琉にとっても予想以上だった。
 同じく、現や栗花落もあまり表情が冴えない。雅が気にして現に声を掛けた。
「現さんも、かなりショックだったかい?」
「ですね」
 現は言葉少なく言った。
「煌輝さんたちに良い薬になればと思ってたんだけど、それ以上に君たちにも衝撃が強すぎたかな?」
 横で栗花落が苦笑いした。
「いえ、むしろ現実を見せてもらって、具体的な目標が見えた分、やりやすいです」
「君も、思った以上に強がりだね。でも、部長はそうじゃなくっちゃ」
 雅はくすりと笑った。
「まだ始まったばかりですし、ここで諦めてちゃ、ここまで苦労した甲斐がありませんから」
 現はちょっと無理して微笑みを返した。そりゃそうだと雅も頷いた。


 神宮が案内したのは、札幌駅前のホテルの中のレストランだった。すでにお昼休みらしく、扉は閉まっていたが、神宮が声を掛けると中から従業員らしき人が扉を開けた。
「え、ここ……が、お知り合いの?」
 乃愛琉はそんな神宮を見て驚いた。どうみても高級そうなレストランだった。
「うちの親戚がやってるんですよ」
「このレストランですか!?」
「いや、このホテルを、だよ」
 あっさりと言う神宮に一同は唖然とした。札幌駅前の高層ビルに入ったそのホテルは30階は超す高さだろうか。少なくとも石見沢にはこの高さの建物はない。
「元々地元の会社が運営していたんだけど、10年くらい前に経営難で倒産したらしく、ボクの叔父の会社が買ったんだってさ」
 気のない返事で神宮は答えた。
「すごいですね、ホテル経営とか」
 雅が思わず敬語になった。
「ボクがやってるわけではないんで……あはは」
 神宮が謙遜なのかどうか判断つかない言い方をした。
「あ、来てますか?」
 神宮が従業員に声を掛けると、「はい」と返事をして、皆を奥の部屋に誘導した。従業員が奥の部屋を開けると、中から一人の女の子が飛び出して来た。
「知毅(ともき)お兄様!」
 飛び出してきた女の子は、真湖たちと同じくらいの年頃だろうか。ドレスのようなひらひらの洋服を着ている。一見すると、ゴスロリコスプレに見えなくもない。
「ちーちゃん。久しぶり」
 神宮は飛び出して来たその子をそのままだっこして受け止めた。まるでそれはお姫様を迎える王子様の様で。乃愛琉はその様子を見て面食らった。
「あ、皆さん、紹介します。ボクの従兄妹(いとこ)で、神宮千衣子(じんぐう ちいこ)っていいます」
「神宮千衣子です、よろしくー」
 さすがに札幌の子。垢抜けた感じの子だった。神宮にだっこされたまま、満面の笑顔で皆に挨拶した。
「お兄様、新栄中見学されたんですって?」
「行ってきたよ。うん、上手かった」
「へえ、そうなんだぁ。実はわたしもね、合唱部入ったのよ?」
「へえ、女子校にも合唱部なんてあるんだ?」
「ええ、中高合同ですけどね。中等部は今年からNコンも出ることにしたのよ」
 千衣子はそう言って、真湖達に視線を送った。真湖と乃愛琉はきょとんとした。
「だから、お兄様も頑張って北海道ブロックに出てきてくださいませ」
「へえ。札幌地区で金賞取るつもりかい?」
「もちろん」
 千衣子は自信満々の表情でそう答えた。
「まあ、いいや。皆さん、どうぞ、お入りください。自分の家だと思って寛いで」
 奥の部屋に通されると、中はVIPルームらしく、シャンデリアに飾られたヨーロッパ風の小部屋だった。ロココ調の内装と家具が千衣子のドレスを違和感なくさせていた。むしろ、制服の真湖達の方が浮いていた。
 自分の家だと思うにはかなり無理があるなと真湖も乃愛琉も思った。
「どうぞ」
 しばらくして、給仕のスタッフが刺繍の入ったテーブルクロスの上に重箱に入ったお弁当を持ってきた。中を開くと、洋食のセットだったが、気を遣ってなのか、お箸で食べられるメニューだった。真湖はほっとため息をついて安心した。
「みなさん、知毅お兄様をよろしくお願いしますね」
 会食の間、千衣子は何度もそう言った。その度に、真湖と乃愛琉への牽制にも似た目線を送り続けていた。
 会食は1時間程度で終わった。部屋の雰囲気に圧倒された一同は最初は無口で過ごしたが、次第に慣れてきたのか、神宮と千衣子の会話に混じっていった。千衣子が真湖たちと同じ中一であること、札幌でもお嬢様校と名高い中高一貫の女子校に通っていること、千衣子も生まれは石見沢であったが、両親の仕事の都合で札幌に移り住んだことなどを聞いた。
「では、次にお会いするのは、Nコンの会場ですわね」
 真湖たち合唱部の一同にそう言って、千衣子は最後に神宮に向かって、
「お兄様は次はいつ札幌にいらしていただけるの?」
「どうかなぁ。ボクも今年受験生だからね。去年までみたいに、しょっちゅうって訳にいかないかも」
「千衣子寂しいですわ。じゃあ、今度わたしが石見沢に遊びに参りますわ!」
 千衣子は手をぽむと叩いて、そう言った。どうやらNコン前にどこかで会う予感をもった真湖であった。


 一行はそのままJRで石見沢に戻る。石見沢駅に着いた頃にはすでに薄暮の時間だった。
「じゃあ、今日はお疲れ様。また明日」
 雅の号令でそこで解散した。
「あ、あれ?」
 雅、現達と別れた直後、真湖が変な声を上げた。乃愛琉と翔が真湖の指した方向を見ると、見かけたことのある顔が。
 その男子生徒三人は、間違いなく公園で真湖に因縁をつけてきた、あの三人だった。特徴のある顔立ちなので、乃愛琉も翔もはっきりと判別できた。
「あ、あの人たち……。でも、変じゃない?あの制服、うちの中学のじゃないよ。多分……高校の制服……石農(せきのう)のじゃないかな」
「え? なんで?」
 真湖たちは頭を捻った。

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